部下にメンタル不調を打ち明けられて頭を抱える上司2人のイラスト。ざんねんな面談事件簿「公開処刑!!個人情報ダダ漏れ面談」

「実は、最近ちょっと調子が悪くて……」

部下からそう打ち明けられたとき、あなたはどこで話を聞いていますか。

部下のメンタル不調への対応を解説した記事の多くは、「どんな言葉をかけるか」「どう聴くか」を扱います。それも、もちろん大切です。

しかし、キャリアコンサルタントとしてさまざまな場所で面談をしてきた立場から見ると、その前提となる「どこで話を聞くか」が、意外と見落とされていると感じます。

部下が本音を話せるかどうかは、面談の設定の段階から始まっています。 周りに聞こえるかもしれない場所では、本当に困っていることほど口に出せません。相談しにくいと感じた社員は、不調を一人で抱えたまま、必要な支援につながれなくなるおそれがあります。

そして、これは管理職ひとりの問題ではありません。経営者や人事にとっても、社員が安心して相談できる環境を整え、相談を受けた管理職が迷わず動ける体制をつくることは、重要な職場づくりの課題です。

この記事では、面談の場所選びから、話を聞くときの声や態度まで、上司がやってしまいがちな失敗と、本音を話せる環境の整え方をお伝えします。後半では、経営者・人事の方に向けて、相談体制の整え方を紹介します。

この記事を書いた人

堀 左馬之介(キャリアリカバー®代表/国家資格キャリアコンサルタント)
精神科・心療内科クリニック「就労プログラム」・大学「キャリアデザイン」講師。
キャリア相談7,100回以上。管理職向け1on1面談研修など、研修・セミナー850回以上。


ざんねんな面談事件簿:カフェに響いた「心療内科にかかってるの?」

ここで、無料配布している資料『ざんねんな面談図鑑』から、ひとつの場面をご紹介します。

「リラックスした雰囲気で」という上司の考えのもと、近くのカフェで面談をすることにしました。

周りを気にしながら、部下が小さな声で切り出します。

「実は……最近、メンタルの調子が良くなくて、心療内科に通っていまして……」

上司は思わず身を乗り出し、大きな声でこう返しました。

「えっ、心療内科にかかってるの?」

隣の席の人の手が止まります。部下は顔を伏せ、そのあとは当たり障りのない話しかしませんでした。

上司に、部下を傷つけるつもりはありませんでした。「まさか、あの人が」という驚きが、そのまま声に出てしまったのです。けれど部下には、その一言が「心療内科に通うのは、驚かれるようなことなんだ」と聞こえました。しかも、周りの人にまで聞こえてしまった。部下が受け取ったのは「この人には、もう話せない」という感覚でした。

足りなかったのは、まず、どこで誰に聞かれるかへの配慮です。カフェを選んだ時点で、そこは本音を話せる場所ではありませんでした。そのうえで、驚きをそのまま声に出してしまったことが、部下の口を閉ざしたのです。

部下にメンタル不調を打ち明けられたとき、上司がやってはいけない3つのこと

カフェの上司の失敗は、特別な人だけが起こすものではありません。面談の場所を決めるときから、打ち明けられた直後までに、多くの上司がやってしまいがちなことを、事件簿の場面に沿って3つ挙げます。

1. 周りに聞こえる場所で面談をする

カフェ、オープンスペース、ドアの開いた会議室。上司にとっては「いつもの場所」でも、打ち明けた側は、周りの耳が気になって仕方ありません。人に聞かれるかもしれない場所では、本当に困っていることほど口に出せなくなります。

2. 大きな声で驚く

「えっ!」「大丈夫なの!?」。驚きや心配が、そのまま声の大きさに出てしまう。部下には「大ごとにされた」と伝わり、周りに聞こえる不安も重なって、それ以上話すのをやめてしまいます。

3. 通院や病名を、周りに聞こえる形で口にする

「心療内科にかかってるの?」「メンタルの病気ってこと?」。部下が小さな声でようやく口にしたことを、上司がはっきり言葉にして繰り返す。悪気はなくても、それは本人の健康情報を周りに知らせているのと同じです。部下は「この人に話すと、ほかの人にも知られてしまう」と感じます。

なぜ、話せる場所が信頼と離職を左右するのか

健康に関する情報は、慎重に取り扱う必要がある

病歴や診療・通院に関する情報などは、個人情報保護法の「要配慮個人情報」に該当する場合があり、慎重な扱いが求められます。家庭の事情なども含め、本人が人に知られたくない情報です。

会社が社員の健康情報を取り扱う際には、個人情報保護法や労働安全衛生関係のルールに沿って、適切な管理を行う必要があります。

周囲に聞こえる場所で話をさせたり、必要もなく本人の健康情報を広めたりすることは、本人の信頼を損なうだけでなく、会社にとってもリスクとなります。

打ち明けられるのは、メンタル不調だけではない

面談で打ち明けられるのは、メンタル不調だけではありません。子どもの不登校、離婚、親の介護、家族の病気。仕事の悩みの裏には、こうした家庭の事情が隠れていることがよくあります。

どれも、本人が周りに知られたくない話です。大きな声で「えっ、離婚するの?」と返してしまえば、結果は同じです。この記事でお伝えする場所と声への配慮は、こうした相談すべてに当てはまります。

「話して損した」と感じたら、次の相談をためらう

最初の相談で嫌な思いをした人は、次から不調を隠すようになるかもしれません。上司が気づいたときには、休職や退職を考えるほど状態が悪化していることも考えられます。

もちろん、適切な面談をすれば必ず休職や離職を防げるわけではありません。

それでも、社員が早い段階で相談でき、必要な支援につながれる職場は、不調の悪化や離職を防ぐための土台になります。

面談の場所は、部下にとって「この職場で相談してよいか」を確かめる最初の手がかりでもあるのです。

部下にメンタル不調を打ち明けられたときの対応:話せる環境を整える3つのステップ

では、どのようにすればよいのでしょうか。次の3つのステップで防げます。

ステップ1:話せる場所を整える

まず、安心して話せる環境を確保します。

  • 面談の場所と時間を決める
    「少し相談したいことが」と声をかけられたら、その場で聞き始めず、まず話せる場所と時間を決めます。
  • 対面の場合
    声が漏れない個室を選びます。部下が話し辛そうな雰囲気なら「ここだと話しにくいよね。場所を変えようか」と中断してもかまいません。
  • オンラインの場合
    上司側だけでなく、部下側の環境にも気を配ります。「今いる場所は、周りに声が聞こえませんか」と確認し、必要に応じてイヤホンの使用をすすめます。
  • 閉ざされすぎない環境づくり
    面談の時間と場所だけを周りと共有しておく(内容は伝えない)、終わりの時間を決めておくなどして、双方が安心できる場にします。
  • 座る位置にも気を配る
    真正面に向き合うより、斜め横に座るほうが、緊張がやわらぎ話しやすくなります。
  • 場所の主導権を部下に渡す
    「この場所で話しやすいですか」と、本人の希望を確認します。

ステップ2:落ち着いた声と態度で、話しやすい空気をつくる

話しやすさを左右するのは、場所だけではありません。目の前で話を聞く上司の声や態度も、部下にとっては環境の一部です。

  • 驚いても、感情をそのまま表に出さず、声のトーンを落としてゆっくり話します。
  • 部下が口にした通院や病名、家庭の事情は、こちらから大きな声で繰り返しません。
  • 個室でも、ドアの外や隣の部屋に声が届かないか気を配ります。

ステップ3:ひとりで抱えず、人事や専門家につなぐ

上司ひとりで抱える必要はありません。むしろ、抱え込まないことが大切です。打ち明けられた内容に応じて、人事、産業医・産業保健スタッフ、社外の相談窓口などにつなぎます。産業医がいない規模の会社でも、地域産業保健センターなど外部の窓口に相談できます。

※「誰に、どこまで伝えるか」という情報の扱い方は、ざんねんな面談図鑑 No.02「『ここだけの話』が翌日筒抜け」で詳しく取り上げる予定です。

「消えてしまいたい」などと言われたら

多くの相談は、ここまでの対応で十分です。ただ、まれに「死にたい」「自分を傷つけてしまいそう」といった言葉が出ることもあります。そのときは、面談の進め方より本人の安全を優先してください。本人をひとりにせず、社内の手順に沿って、産業医や医療機関につなぎます。

経営者・人事の方へ:管理職ひとりに背負わせない相談体制

ここまで上司の対応をお伝えしてきましたが、「すべての管理職に、ここまでの配慮を求めるのは難しい」と感じた方も多いと思います。その感覚は正しいと思います。話せる環境づくりを、管理職個人の気配りに任せていては、職場ごとの差は埋まりません。

必要なのは、管理職が相談を受けたときに、話せる場所と連携先が、会社としてあらかじめ用意されていることです。

話せる場所を整えることも、管理職の「ラインケア」のひとつ

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、管理職によるケアを「ラインによるケア」と呼び、その中に職場環境の把握と改善や、部下からの相談への対応を含めています。この記事でお伝えしてきた「話せる場所を整える」ことも、そのひとつです。

ただ、個室を確保できるか、相談を受けたあと誰につなぐかは、管理職ひとりでは決められません。指針でも、管理職によるケアは、人事や産業医などの産業保健スタッフと連携して進めることが効果的とされています。

自社の体制を点検する4つの問い

次の問いに、すぐ答えられるでしょうか。

  • 面談に使える個室や時間を、管理職がすぐに確保できますか
  • 管理職が不調の相談を受けたとき、最初に連絡する担当者は決まっていますか
  • 「消えてしまいたい」などの言葉が出たとき、誰がどう動くか、手順は決まっていますか
  • 社内の人に話しにくい社員が使える、社外の相談先はありますか

ひとつでも迷う項目があれば、そこが管理職への負担が集まりやすいところかもしれません。

社外の第三者という選択肢

評価をする上司には、どうしても話しにくいことがあります。人事にも、家庭の事情やキャリアの悩みは話しにくいという社員もいます。利害関係のない社外の相談先があれば、社員は早い段階で悩みを整理でき、会社は不調や離職の兆しに早く気づけます。

キャリアリカバー®では、精神科・心療内科クリニックでの就労プログラムの企画・講義や、7,100回以上の面談実績をもとに、次のような形で企業の相談体制づくりを支えています。

  • 社員の本音の一次整理
    社内では話しにくいキャリア・メンタル・家庭の悩みを受け止め、本人の意向を確認しながら、人事につなぐ課題を整理します
  • 専門家へのおつなぎ
    不調のサインに気づいたとき、必要に応じて産業医や医療機関への相談を後押しします
  • 管理職の面談力の向上
    面談の場所選びや話し方など、この記事のような「環境づくり」を研修で実際にロールプレイングします
  • 相談・連携の体制づくり
    管理職が相談を受けたあと、誰に、どうつなぐかの流れを一緒に整えます

よくある質問

Q. 個室が取れないときは、どうすればいいですか?

その場で無理に話を続けず、「大事な話だから、落ち着いて話せる場所で聞かせてほしい」と伝えて、日時を改めてください。時間帯をずらして空いている部屋を使う、社外の貸し会議室を使う、双方が周りに聞こえない環境を確保できるならオンラインにする、といった方法もあります。カフェなど人のいる場所は避けます。

Q. オンライン面談では、どんなことに気をつければいいですか?

上司側だけでなく、部下側の環境にも気を配ってください。最初に「今いる場所は、周りに声が聞こえませんか」と確認し、家族や同居人に聞こえないか、カメラに映り込むものはないかを一緒に確かめます。イヤホンの使用もすすめましょう。

また、オンラインでは音声にわずかな遅れが出るため、対面のときよりも、ゆっくり話すことを意識してください。話しにくそうなときは、無理に続けず、日時を改めます。

まとめ:安心して話せる場所を用意する

部下からメンタル不調を打ち明けられたとき、上司に求められるのは、すぐに解決策を出すことではありません。

  • 安心して話せる場所を整える
  • 落ち着いた声と態度で、話しやすい空気をつくる
  • ひとりで抱えず、人事や専門家につなぐ

この3つがそろうと、部下は「この職場なら相談しても大丈夫」と感じやすくなります。

ただ、個室を確保できるか、相談を受けたあと誰につなぐかは、管理職ひとりの努力では決められません。話せる場所とつなぎ先を会社として用意しておくことが、社員が早めに相談できる職場をつくり、不調の悪化や離職を防ぐ土台になります。


今回の事件簿を含む10の失敗例と、それを防ぐ「面談の処方箋10策」は、『ざんねんな面談図鑑』の解説ページでもご紹介しています。

部下の不調を、管理職ひとりに抱えさせない。 精神科・心療内科の現場を知るキャリアコンサルタントが、社員との面談、管理職研修、相談体制づくりまで伴走します。

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